【#4】『ミシンと金魚』

 『ミシンと金魚』を買った。

 何気なく買ったが小説の、しかもハードカバーは久しぶりだ。書籍自体最近は参考書か辞書しか買ってない。一番新しいので『問いかける法哲学』(瀧川 裕英 著)だ。参考書とも言えなくはないが、コレは単純に読み物として買ったもので、とても面白い本である。

『ミシンと金魚』を買おうと思ったきっかけは、著者である永井みみさんのすばる文学賞*1の受賞コメントをTwitterで見かけて興味を持ち、

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更にこの対談、これがあまりに面白かったのですぐ買ってしまった。そして今日届いた。冒頭からカケイさんの溢れんばかりの愛嬌でぐんぐん読み出してしまったため、全部読んでしまう前に*2読む前の気持ちを書かねばと思って久しぶりにブログを書くことにした。

 

 実は祖母が今月の初めに亡くなった。今私が“どの”祖母と書かなかったのは父方と母方、そのどちらもが立て続けに亡くなったからだ。89歳と90歳。死因はどちらも老衰だった。2人とも特養に入所しており、このコロナ禍で2、3年会えないままだった。

 父方の祖母とは元々同居していたが、彼女は5年程前、庭で転んで鎖骨を折ったことから徐々に弱ってしまい、ついに歩けなくなって施設へと移り寝たきりになった。何度か会いに行ったが、彼女はいつも難しそうな硬い顔をして押し黙り丸まって寝たままだった。私はずっと後ろめたかった。彼女は自分をここへ追いやった私たちのことを恨んでいるのではないか、と。老人ホームへのイメージは正直、悪かった。それはニュースで漏れ聞く事件や事故が主な理由ではあったが、実際施設を見るにそこには沢山の、“様々”な方が居て、入所する方も、そしてそれをお世話する介護士さんたちもひどく大変そうに思えたからだ。

 しかし祖母が亡くなって一晩経ち、悲しむ暇もなく葬儀手続きに奔走する中、私たちが朝から遺影にする写真を探していた時のことだ。それまでに彼女の若い頃の写真を何枚か見たものの、シャイな性格だったせいか一団の端っこで控えめに微笑んでいるものが殆どでコレといった決定打がなくみんな頭を抱えていた。そんなとき母が施設から引き取った物の中から一枚の写真を見つけた。それは何かのお祝いだったのか折り紙で作った飾りや金銀のモールを背景に撮られたピン写だった。映っていたのは幸せそうな、はにかんだような笑顔の、私たちが永らく見ていない、けれどとても見慣れた彼女だった。ああ、彼女はあそこで生きていたんだ。苦しくて痛くて嫌なこともあっただろう。だけど、こんな風に笑う楽しいことも確かにあったんだ。私はその時初めて、そう気づいた。

 『ミシンと金魚』に強く惹かれたのは、だからかもしれない。私の知らない、だけどよく知る彼女。これを読めば会えるだろうか、最期のあなたに。

 

 

 

 

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*1:第45回すばる文学賞

*2:私は美味しいおかずを後生大事に最後まで取っておくタイプだ